羊と鋼の森を読みました。
とある山育ちの少年が、調律師に出会い、魅せられ、調律師となり、そして『調律師として何を目指していくか?』を見つけるまでの物語。
調律師と隣接する仕事であるピアニストであれば『こういう音色のピアノを弾けるピアニストになる』であったり、ピアノの製作者であれば『こういう音を出せるピアノを作る』など、結構目標が明確になりやすそうです。しかし調律師は『ピアノと、ピアニストの狭間』の職業。彼らの調律はピアノに影響するものの、ピアニスト自信も『どういう調律をしてほしいか』と明確に言えるケースばかりではありません。実際、主人公も『なんかちがう』という、あいまいなオーダーに悩まされます。
主人公のまわりにいる調律師たちも様々。『あえて、繊細になりすぎるように調律しない』と明言する調律師や、一方コンサートにひっぱりだこの調律師もいます。先輩たちはお互いに『彼の調律も見てみなよ』と、全く異なるポリシーを持つ同僚の調律を主人公に見てみるように言います。
色んな調律を見て、色んなお客さんに出会って、主人公の出す結論は……。結論を出すまでの道のりが、すごく良くて、さわやかで、良い小説でした。
調律師の話ですが、ピアノ経験の一切ない人間でも普通に楽しめるお話です。おすすめ。
つづきはネタバレ有。
ここからはネタバレ有。
『そこがいいとこだよね!』って色んな人に言うポイントだと思うんですけど、『主人公が1回出した結論を、読者の自分らも話の流れからうん!その方向性、良いと思う!いけいけ主人公!!』って思ってたところで、あっさり打ち砕かれるんですよね。
でもその方向性は間違ってたんじゃなくて、『結論に至るための、途中としては正しかった』というか、『いったん結論に至ったからこそ、最後により良い結論に至ることができた』という感じの、『その段でしっかり踏み込んだからこそ、その上の段には到達できた』というステップを踏んでるんですよね。とっても気持ちがいい。
本当にさわやかで気持ち良い素直に応援できるお仕事小説&自分もがんばろ!って思える小説です。