読書と映画の記録

読書と映画の記録です

理知的で、不器用で、やさしいひとたち。

月のこと、雪の結晶のこと、地球温暖化のこと、素粒子のこと、地層のこと。

それぞれに詳しい、理知的で不器用な人たちとのふれあいを通して、すこしやさしい気持ちになれるお話。

 

どのお話も良いお話なのですが、個人的に1番お気に入りなのは『エイリアンの食堂』。どこかつかみどころのない研究所勤めの女性と、幼くして母を失った娘とその父の話なのですが、子どもの純粋さ、母のいない娘と父の関係のぎこちなさ、そして研究所勤めの女性の理系ならではの『ちょっとズレた励まし方』がじんわり、ほっこりきます。

他のお話も理知的な人が多くて、人柄にほっこりするのもあるのですが、彼らの語る知識が普通に読んでて面白いです。小説も読めるし色々な知識も手に入る、一石二鳥でオトクな書籍です。気象・素粒子・地層・化石・天文に興味ある人にオススメ。

 

つづきはネタバレアリ感想

 

 

 

1番好きなお話を選ぶのに悩んだんですよ。

エイリアンの食堂は父娘と女性がいて、父娘の関係と、娘と女性の関係と、両方があって、父娘のぎこちなさや難しさにもどかしいと思うと同時に、娘と女性の関わりにひやひやしつつほっこりするのがあるので、やっぱり『人との関係って、すてきだなあ』と思うのはエイリアンの食堂なんですけど。

 

でも、『アンモナイトの探し方』もすごい好きなんですよね。受験戦争に疲れた少年が田舎に来て、変なおじいちゃんに出会って、アンモナイトを探す話ですけど、なんていうか、受験戦争に疲れた彼が夢中になれるものを見つけられたっていうのがすごい嬉しく感じるんですよね。彼がこの先どうなるのかわからないけれど、でもなんか『やっと息抜きをみつけられたんだろうな』みたいな。もしかしたら彼は将来山を刻むの院生や教授みたいになるのかもしれない。多分、『いいとこに行くために受験する』よりも『何か学ぶために受験する』の方がよっぽど楽しい。アンモナイトに興味をもった彼は、きっと大丈夫だろうなあ、みたいなことを、思ったりするのでした。

 

星六花もすごい心に残っていて。理系の理って『いつも変わらずにそこにある理』だなあと思うんですけど、星六花の奥平さんは『いつも変わらずそこにある理』に救われてるんですよね。もう、世の中がどうだろうか、理は理なんですよ。それに救われ、支えられ、立ち上がれる、理って素晴らしいなあ、って思うのでした。エイリアンの食堂の女性も理に救われてる感があるので好きです。きっと娘も。

 

理系科目、苦手だったけど、知識としては好きなので、この本は全体的に色々な理系学問の知識が出てきて、『小説でわかる理科のまめちしき』みたいな気分で読んでる時もありました。普通にお話も良いので、理系科目好きな人にはぜひ、理系科目苦手な人でもぜひ、読んでみてほしい本です。

 

あとあとがきもすてきなんですよね。本当は推理小説とかのミステリを書こうとしてた著者が、編集さんに『読者を驚かすことに疲れてるように見えるので、普通の小説を書いてみませんか?』と言われてできたのが、この本なんですよね。編集さん超ナイス!って思います。驚きはないけれど、安らぎのある、素敵な本です。